GUIN SAGA - グイン・サーガ

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インタビュー

[第2回] 若林厚史 / 監督(後半)

若林厚史(監督)

//プロフィール
1964年生。竜の子アニメ技術研究所に入所し、アニメーターとなる。その後スタジオぴえろにて「幽々白書」の作画監督、「NARUTO」の演出などを担当。

-現在では「指輪物語」も「ナルニア」も映像化されてますよね。原作が始まった当時と比べて、ファンタジー作品に対する認識が随分違っているような気がするのですが。

若林
当時より、今の方が落ち着いてヒロイック・ファンタジーの映像化ができるような印象はありますよね。
要するに僕にとっては「ヒロイック・ファンタジーかどうか」は重要ではなくて、「登場人物の魅力、ドラマ」を見せることがグイン・サーガのメインなんです。「指輪」や「ナルニア」の壮大な映像にアニメで対抗しようとか、そんな考えに縛られてはいませんから(笑)。とにかく人間ドラマを見せたいんです。
ビジュアル面でも、西洋ファンタジー的な括りではない、新鮮な感覚で作りたいと思っているんです。この作品の場合、チャン・イーモウ監督[*7]の映画のような、アジアの映像感覚の方がしっくり来るんじゃないかと考えてます。「指輪」や「ナルニア」の映画って凄く良くできているんだけど、色彩感覚という面ではアジアの映画に勝てないんじゃないかと。アニメ的な色彩の鮮やかさを目指していけば、西洋ファンタジーの二番煎じ映像にはならないだろう、という気がしてます。

-チャン・イーモウ監督の作品では、どういうのが参考になりましたか?

若林
「LOVERS」とか「HERO」とか、そういうのですね。色彩とか兵士の動かし方など、西洋の人には無い感覚だなって。
つい最近では、北京オリンピックのオープニングが凄かったですよね。アレを見たとき、「モンゴール兵だよ、これは」って思ってしまいました(笑)。
イーモウ監督の場合、観客が「ここまでやっちゃって良いの?」って思うくらいの事をやるでしょう。やはりそのくらい冒険して驚かさないと、アニメーションも後退してしまうなあと思うんです。

-登場人物のコスチュームなどは、小説版のカバーアートでもかなり描かれてますね

若林
非常に参考にさせて頂いてますよ。例えば天野さんなら独特の色彩感覚や構図といったように、4人のイラストレーターそれぞれ違った特徴の方ですからね。ただ、参考にしているだけで、アニメはアニメオリジナルで制作しています。

-グインの、特にあの豹頭は、アニメではどのように描かれるんでしょうか

若林
グインに関しては、やはりイラストのイメージが強烈だと思いますから、アニメの初見の方が違和感を感じる可能性はありますよね。アニメのセルの塗り方をする以上、見た目が全然違いますから。グインに関しては、アニメでどんな事をしても「これは違う」って言われちゃいそうです(笑)。
実は、アニメ版のグインは肉弾戦に比重を置いているんです。原作ではかなり剣を使った闘いが多いんですよね。

-小説ではグサグサ刺したり斬ったりしていますね。

若林
そのままアニメの画面にすることも出来るんだけど、どうしても斬殺ってエグいんです。あれだけの孤高の主人公なのだから、それをやって良いのかなと抵抗感がありました。それで肉弾戦のアクションを試しに描いてみたら、生臭くなく良い感じになってきたんですよ。心優しい男としてのグインに見えてきた。

-グイン以外の登場人物についてはどうですか?、主要な人物だけでもかなりの人数なわけですが…

若林
人数は多いですよね。群像劇の演出って、二つの方向性があると思うんですよ。人物一人一人を緻密に設定していく方向と、人物を大まかな集団として掴んでから、あとで微調整する作り方と。僕の場合は後者の作り方が向いているという気がしているので、ざっくりと、大きな塊で捉えるようにしています。グイン・サーガの場合、一人一人の性格付けを細かくやり過ぎると、絶対に崩壊してしまうと思うんです。

-アニメ版の新キャラクターは出たりするんでしょうか、それとも原作そのまま?

若林
基本的に原作そのままです。ただ、制約もありますから、一部のキャラクターを原作よりも先行して出したりというような、そういった事はやっています。もちろん原作が非常に長い小説なので、そのままアニメに出来ない部分はあるんです。でも解決して映像にする方法は必ずある、それを作るのが僕たちプロの仕事だと思います。今回のシリーズはそういう面では非常にスマートな作りになっている。変なまとめ方はしていないつもりなので、原作の愛読者にも納得してもらえると思うし、楽しんでもらえると思います。

-一方で、原作小説を読んでいない新しいファンがアニメ版から入ってくるかもしれませんよね。

若林
そうですね。そういう人にはやはりグインという主人公のカッコ良さを見て欲しいですね。ピンチの時にどこからともなく現れるような、昔ながらのヒーローが復活したような感じがするんです。挫けそうな時にいつも手をさしのべてくれる。最近のアニメには珍しいタイプですよね。

-最近のアニメでは、屈折した複雑なヒーローが多いですよね。シンプルな「カッコイイ大人」って成立しづらくなっている。

若林
ですよね。でも、このグインに関してはそれが成立しちゃうんですよ。何故かというと、豹の仮面を着けているからです。全ての感情を仮面が吸収して、神秘性が生まれるんでしょうね。これが生の顔、素顔を露わにしている人間だと、納得いかなくなると思います。もしかしたら偽善者に見えるかもしれないし。

-映像として考えると、仮面を着けた昔の変身ヒーローと根源は同じかもしれませんね。

若林
発想は同じだと思いますよ。仮面ライダーだって、あの仮面を着けているからヒーロー性が生まれるんですよね。それは能面にあるような、西洋にない日本独自の感覚かもしれません。
グインの感情表現って、あの仮面に表情をつけて出せるものではないと考えてます。仕草やセリフの間、シーンの構図といったもので、怒りも悲しみも見せていくべきだと思います。そこが演出としての醍醐味かな、と。

-どうもありがとうございました。

(取材・構成 村上泉)


備考

[[*7]チャン・イーモウ監督
「紅いコーリャン」、「HERO」などで知られる中国の映画監督。