GUIN SAGA - グイン・サーガ

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インタビュー

[第6回] 東 潤一 ・ 平柳 悟 / 美術監督

//プロフィール
東潤一(写真左) - スタジオ・イースター代表。『機動戦士Zガンダム』や、『天空のエスカフローネ』など多数の作品で美術監督を務める。
平柳悟(写真右) - スタジオ・イースター所属。『ゴルゴ13』などの美術担当を経て、グイン・サーガでは自身初の美術監督を務める。

-グイン・サーガという原作は、ご存じでしたか?

かなり昔からある小説だからもちろん名前は知っていたけれど、読んだことはなかったんですよ。

-若林さんの初の監督作品となるわけですが、仕事をしてみてどのような方でしたか

平柳
若林監督とは昨年秋から制作作業でご一緒させていただいていますが、一緒に作業をしていて楽しいですし、とても刺激になります。
若林さんも初監督ですし、この平柳も初美術監督なのでお互い初物同士です(笑)。
僕は初監督作品の美術をすることって、結構多いんです。『天空のエスカフローネ』も『カウボーイビバップ』も初めての監督作なんだけど、僕はそういうのって好きなんですよ。やっと手に入れた監督作だから、すごく無茶を言ってくる。限界を分からないから夢をぶつけてくるんです。現場としては厄介な面もあるけれど、その中に新しい発見がある。だから結果として面白い作品になる場合が多いんだろうと思います。

-スタジオ・イースターという美術スタジオは、現実の街中を舞台にしたリアル系の美術を得意とされているという印象がありますが、グインに関してはどのような美術を目指されたんですか?

平柳
最初に仕事が始まった時点では、ヒロイックファンタジーの映像世界ということでモノトーン調というか、同じような色調で構成された渋い世界を想像していたんですね。ところが監督から要求されたのは全然違う方向性でした。
若林監督から「よくあるファンタジーの見せ方とは違うものをやりたい」という事を伝えられたんです。最初はそれがどういう意味なのかよく分からなかったんだけど、イメージボード作成などを進めていく中で、ファンタジーの既存のイメージを意識しすぎず、「アニメらしさ」を追求したいという思惑が分かってきました。
モノトーン的なものでは無くその逆を行きたい、という監督の意向を尊重しつつ、少しずつ方向性を探っていきました。

-美術ボードを見ていると、色彩がとても豊かですね

おそらく最初の時点では、監督はもっと派手なものをイメージしていたかもしれませんよね。一方でドラマの内容を考えると、ただ色が派手なだけではなく美術には「重厚さ」も必要になってきます。そういった美術を作る側からの意見と、監督のイメージとの摺り合わせが大変でした。作業が進むにつれ、段々とお互いの言わんとしている所が理解できるようになってきました。

-色彩が豊かな一方で、陰影やディテールはかなり厚く付けていますね。

平柳
監督からは「リアルさ」と「アニメっぽさ」の中間を美術に求められたんですが、何とか形になってきたかなと思います。
色彩の派手さだけでディテールが薄いと、「シリアスな世界」が描けなくなるんです。原作のストーリーを考えると決して軽い作品ではないですから、それに見合ったリアリティを必要とする。そういうバランスで随分苦労しました。
監督からは「広がりがあるようにしてほしい」と良く言われました。ただそれを、通常の「柔らかい空気感」にするのじゃなくて、パキッとした画面にしてほしいと。

-同じ舞台が何度も出てくるわけではなく、どんどん場所が移り変わるロードムービー的要素もあるわけですが

平柳
グインと出会う第1話では自然物が中心なんですが、2,3話では砦の中の室内が主ですし、その後また自然の中に出ていきます。かなりバリエーションが豊かな分、美術としてはかなり大変でもあります。美術スタッフにもそれぞれ個性がありますから、得意な分野を見極めて配分していってます。
先日、手元の美術設定の枚数を数えていたんですけれど、通常のTVアニメの倍くらい作っているんじゃないでしょうか。

-キャラクターと美術のマッチングは、難しい点はなかったですか?

若林監督は「美術からキャラが飛び出して見えても良い」という考えなんです。最近のアニメーションの傾向として、背景とキャラを馴染ませていくという画面作りがあるんですが、そうではなく昔のアニメのようにキャラが浮いて見えても良いという方向性なんです。

-現在は、撮影処理を厚くかけて馴染ませるのがトレンドになっていますね

今では制作がデジタル化されたことで、たくさん多くの小技が使えてしまうんです。それが当たり前になってしまって、どんな効果をかけても絵柄の新鮮味が薄れて、どの作品も似たような質感になっていく。じゃあ昔の素朴だった時代に戻って、アニメらしい画面を作ろうというのが若林監督の意図なんだと思っています。「自分だけのオリジナルな画面を作りたい」という気持ちが強くあるんでしょうね。

-どうもありがとうございました

(取材・構成 村上泉)